会長の”三行日記”

2011.09.02

ちょっと良い話part81 No.2066

父からの電話という、ちょっと良い話です。少し長文になっていますが、そのやりとりの情景が目に浮かぶようで、ほのぼのとした気分にさせてもらいました。
 
「お前、明日は仕事何時に終る?」仕事で東京に住む私の元にかかってきた1本の電話。それは生まれて初めて父親からもらう電話だった。父は仕事で客船に乗っていて、明日東京に来るから、母から預かった荷物を持ってくるという。

普段から無口な父は、電話でも用件を言うとすぐに切ってしまった。狐につままれたような気分になりながらも、久しぶりに父に会えることを楽しみにした。

父は私が幼稚園に上がる時に母と結婚した。つまり私と父には血のつながりがない。その後、弟と妹が生まれたが、わけ隔てなく接してくれていた。もちろん口数が少ないために、あまり話しをした記憶などなかったけれど、幼い頃に熱を出した私のために、熱いミルクを作ってくれたのを良く覚えている。

そんなことを思い出しながら待っていると、大きな手提げ袋を抱えた父が改札を通ってきた。「飯食いに行くか。なにが食べたい?」ごく当たり前のように、夕食を一緒に食べようと言う父に若干とまどった。

家に居たころにそんなことを言われたことがなかったからだ。とっさに思い浮かばず口ごもっていると「食べたのか?お腹空いていないのか?」と聞いてくる。

こんなに話す父は初めてだったが、なんだか嬉しくなった。駅ビルの中にあるトンカツ屋で、一緒にトンカツ定食を食べた。『職場はどうだ?』『人付き合いは大変じゃないか?』『新人なんだから礼儀はきっちりしておけよ』食べながら社会人としての心得や、お互いの仕事の話をした。

父はこんなに話す人だったのか・・・。と驚きながら、仕事という共通の話題ができたことが嬉しかった。食べ終わると、荷物を持ったまま私の電車はどれか?と聞いてきた。

「女子寮だからね・・入れないよ!」と言うと、乗り継ぎの駅まで送ると言う。大きな袋は重そうだったし、父とこんなに話をすることもないので言葉に甘えて帰りの電車に乗った。最後の乗り継ぎ駅は蒲田だった。

そこで父は大きな袋を私に渡すと「こっちの冬は寒いぞ。そんな格好じゃあ風邪をひくぞ。もっと暖かい格好をしなさい」と言って、今来た電車のホームに歩いていった。「またこっちに来るときは電話してね!」と声を掛けると、照れたように笑って改札を通っていった。

大きな荷物は意外に重く、寮までの歩きは大変だったけれど、帰宅して開けてみると缶詰やらレトルトパックの食品だった。「母さん、父さんから荷物貰ったよ!ありがとう♪こんなにたくさん・・」と実家の母に電話をかけた。

「すぐあえたの?大丈夫だった?」という母に、父に食事をご馳走になったと言うと、やっぱり母も驚いていた。「缶詰とか食品はわかるけど・・お菓子まで入れて・・こっちでも買えるのに」と笑うと「え?私はそんなの入れてないよ」という母の声。

まさか、父が?なんだか胸がキュンとして、母と二人で笑いながら涙がこぼれた。「ねぇ、母さん、父さんの船に電話できる?」と聞くと「そうね、電話してあげたらいいよ」 そういって、船の電話番号を教えてくれた。

父が船に着いたころを見計らって、母から聞いた電話番号に電話を掛けると、すぐに父を呼び出してくれた。「ちゃんと着いた?」 ちょっと照れながら話す私に「当たり前だろ、大人だぞ!お前より電車には慣れてる!」 相変わらずぶっきらぼうな口調で答えてくる父。

「今日はご馳走様でした。」 「おぅ!」 「それから、荷物ありがとう」 「おぅ!」 「荷物の中の、お菓子もありがとう」 「・・・おぅ!お前、そんなことで電話してきたのか?」 電話の向こうの声がちょっと照れているのがわかった。

 
近頃、虐待などの悲しい事件がよく聞かれます。血が繋がっていようが、いまいが関係ない、これが本当の親子なのでしょうね。世の中、全てこういけばいいのですが...