会長の”三行日記”

2013.05.14

見事な代役 No.2392

  東京芸術劇場で上演されていた「おのれナポレオン」という演劇で、天海祐希さんが軽い心筋梗塞のため突然降板して、今月8~9日の3公演が中止となりました。

でも公演は12日までの予定でしたので、急遽代役に宮沢りえさんが立ちました。そしてわずか2日間の稽古だったのですが、残りの10~12日の4公演の代役を無事務めたのです。代役を見事にこなした、りえさんに対しては満員の観客からスタンディングオベ-ションが起こり、カ-テンコ-ルも3度も繰り返されたそうです。

この宮沢りえさんに神業とか偉業という、絶賛の声が挙がっているわけですが、代役が決まったのが天海さんの入院降板日の翌日である7日の深夜です。その翌日の8日から2日間の稽古で、台詞とか演技が果たして覚えられるものでしょうか。

何しろ天海さんはこの舞台に向けて2ヶ月間、稽古を積んだと言われています。それをたった2日間の稽古で公演を乗り切ってしまうのですから、やはり凄いとしか言いようがありません。その凄さはもちろんですが、私はそれよりも引き受けた勇気を称えたいと思います。

公演の主役でもある、相手役の野田秀樹さんはそんな宮沢さんに対して、「わずか二日間でのけいこで舞台に立つことを英断してくれた男らしさに感謝します」と述べています。聞くと決して二つ返事で引き受けたのではなく、野田さんの執拗な説得があったみたいですが、これで一段と女優としての株を上げたわけです。

一方で可哀想だったのが天海さんと共演者の方々です。天海さんは今まで一度もこうした舞台や自分の出演に、穴を空けたことがないと言われます。突然の体調異変では本当に仕方がなく、気の毒としか言いようがありませんが、見事な代役を務めた宮沢さんの方に全て話題をさらわれてしまいました。

ですからそれまでの苦労して務めていた舞台の功績など、どこかに消えてしまったのです。それから共演者の方々も大変だったと聞いています。宮沢さんの台詞の量は天海さんの半分程度で、それも覚えやすいようなコミカルなものに変えていたと言われます。

彼女の台詞が減ったということは、その分、共演者のそれが一気に増えるということにもなるわけです。ですから彼女との共演シ-ンが多い山本耕史さんなどは、一から覚え直すほどで3日間ほとんど眠れなかったと伝えられています。

このように突然の降板は私たちの考えている以上に、いろいろな影響を及ぼすわけです。これですっかり株を上げた宮沢りえさん、たった5日間を残して降板せざるを得なかった天海祐希さん、それぞれに苦悩があったことと思われますが、長い目で眺めた場合、どちらがこれからの女優人生に活かされるものでしょうか。